あさりの漁業改善プロジェクトを通じた黄海沿岸の生物多様性の保全

黄海沿岸の豊かな生物多様性(渡り鳥・干潟のあさり・漁業)と保全活動

中国大陸と朝鮮半島に囲まれた海、黄海。
鯨類などの海棲哺乳類をはじめ、300種以上の魚類や、貝類を含む100種以上の軟体動物など、多様な生物が生息し豊かな生態系をつくっています。
沿岸地域では、鴨緑江、黄河、長江などの大規模な河川からの流入する砂泥などの堆積物が、約20,000km²にもなる広大な干潟を形成しております。
この広大な干潟群は、世界に9つある渡り鳥の移動ルート(フライウェイ)の一つ「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ」にも含まれ、シギやチドリをはじめとした多くの渡り鳥が休息や採食のために訪れる、重要な中継地となっています。
中でも鴨緑江河口域は、鴨緑江河口と大洋川河口に挟まれ、両河川から、黄海に面する遼寧省のどの沿岸域よりも栄養塩や植物プランクトンを多く含んだ大量の有機物を海域に運ぶため、世界的にも有数のあさりの畜養生産地となっております。
この湿地帯では、底生生物、鳥類(主にシギ・チドリ類)、人間(主に貝類畜養漁業に従事する人)の3つの主要な要素の調和により、豊かな生態系を構成しております。

日本のあさり供給量のうち、実に6割にあたる量が中国からの輸入によるものであり、あさりの主要生産地である黄海沿岸の豊かな自然によって日本人の食が支えられているのです。
しかし、広大な沿岸の埋め立てを伴う開発が急速に進んだことによる干潟の減少や、過剰な漁獲も深刻な問題となっています。
こういった問題により、あさりの資源の減少や生産現場の自然環境への影響が懸念されてきました。
このため鴨緑江河口域において底生生物、鳥類(主にシギ・チドリ類)、人間(主に貝類畜養漁業に従事する人)の3つの主要な要素の調和を図り豊かな生産性のある湿地帯の保全活動をはかる必要性がありました。

持続可能な供給を目指したあさりの漁業改善プロジェクト

ニチレイフレッシュは2006年から中国産あさりをこだわり商材として取り扱いをはじめております。あさりの産地である鴨緑江河口域での環境も日々変化しており、開発による埋め立てによるあさりの浜の減少や塩田の養殖に使用される農薬のあさりへの影響などの課題について調査しておりました。
WWFは2007年から2014年まで実施した黄海エコリュージョン支援プロジェクトの中で鴨緑江河口域の調査を行い、鴨緑江河口域での渡り鳥・沿岸漁業・底生生物の生態的なつながりを調査し、その結果をもとに生物多様性の保全や持続可能な水産業の推進に関する提言書をまとめ中国の行政府に提言しておりました。
ニチレイフレッシュとWWFは2011年より鴨緑江河口域でのあさりについての情報交流を開始しており、中国及び日本で行われた各種会議・イベントにも参加し現地における課題を話し合っておりました。
2015年黄海の環境保全と中国における持続可能な水産市場についてのセミナーにおいて、持続可能な水産物の生産と消費の促進を通じて黄海の生物多様性を進めるという目標を掲げられました。
ニチレイフレッシュは、あさりの生産者である泰宏食品有限公司に対し、当時、中国では知名度がまだ低かったものの、持続可能な漁業のみが取得可能なMSC認証の意義を説明し、その意義を理解してもらいました。ニチレイフレッシュと泰宏食品とWWFの持続可能なあさり漁業を目指したいという強い想いとともに、2016年より黄海沿岸の鴨緑江河口域のあさりの漁業改善プロジェクトを開始いたしました。
漁業改善プロジェクトは、MSC認証制度の漁業認証規格を満たすことをゴールに設定し、段階的に漁業の改善を進めていくプロジェクトです。

1.資源の持続可能性
2.漁業が生態系に与える影響
3.漁業の管理システム
以上の三つの視点を原則として予備審査を行い課題を洗い出し、調査を通じて漁業が生態系に影響を与える可能性を明らかにし、漁業管理計画の議論を通じて中長期的にわたる適切な管理を促進するなどあさり漁業の改善を進めてきました。

プロジェクトでは、遼寧省東港市の漁業局、大連海洋大学、遼寧省海洋漁業科学院(LOFSRI)、中国水産加工流通協会(CAPPMA)、MSC中国事務所などの幅広い関係者が連携し改善を進めてきました。
改善までの道のりは簡単なものではなく、プロジェクト開始当初は作業が順調に進まない時期もありました。中国ではMSC漁業認証のような漁業の国際認証の取得例も少なく、関係者で会議を行い改善に向けて馴染みのなかった政府関係者にも協力を得ながら取り進めて参りました。
定期的な話し合いの機会は、改善の作業が進むきっかけになるとともに、プロジェクト関係者の関係構築にもつながっていきました。

MSC認証の取得

漁業改善プロジェクトの結果、2020年1月にあさり漁業はMSC本審査入りしコロナ禍の影響により審査の取り進めに影響もありましたが審査は無事終了し2021年9月MSC認証取得をいたしました。
認証取得により、鴨緑江河口域のあさり漁業が、渡り鳥の休息や採餌に欠かせない黄海沿岸域の豊かな自然環境に配慮した持続可能な漁業と認められました。

今回の鴨緑江河口域のあさり漁業のMSC漁業認証の取得は、漁場から加工、商品までをつなぐ中国と日本のサプライチェーン上の関係者が協働する漁業改善プロジェクトを通じて実現した、中国では初めての事例となり、流通面ではニチレイフレッシュが、中国産のMSCあさりの普及に努めて参ります。

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